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日本アフェレシス学会雑誌:7-29-63改 神経疾患領域:フィッシャー症候群

7-29-63改 神経疾患領域
フィッシャー症候群
アフェレシスの方法 PE,DFPP,IAPP
アフェレシスの目的 疾患活動の抑制,自己抗体除去
推奨レベル 2C
カテゴリー III
文献的報告数 RCT CT CS CR
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疾患概念
 フィッシャー症候群(Fisher syndrome:FS)は,先行感染の後に急性発症する外眼筋麻痺,運動失調,腱反射低下あるいは消失を3徴とする症候群である.病態は抗ガングリオシド抗体である抗GQ1b抗体が関連し,ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS)の亜型として考えられている.典型的FSは自然経過による回復が良好であり,6か月で症状はほぼ消失する.

最新の治療状況
 免疫グロブリン療法,アフェレシス療法の有効性を示す症例報告が散見されるが,一方でこれらの治療が回復を促進するというエビデンスはない.典型的FSでは,神経症状は自然経過で回復することが多いため,IVIG,アフェレシス療法は軽症から中等症での必要性は乏しいが,高齢,急激な発症,完全外眼筋麻痺など回復不良となる可能性がある場合には考慮しても良い.

アフェレシスの根拠
 FS 15例を対象としたPE,IAPP及びIVIGのFS 3徴候に対する効果についての比較検討では,PE,IAPPでは他の治療法や未治療の場合と比較して症状の極期期間の短縮など短期効果が示されており,PE,IAPPはいずれも短期効果が期待される.FS神経症状は自然経過で改善するため,施行は重症例で考慮される.FSの病態に抗ガングリオシド抗体である抗GQ1b抗体が関連するとされており,自己抗体の除去が関連することが推定される.GQ1b抗体はIgG1,3クラスに属するため,PEで除去されると考えられる.

施行上のポイント
 施行に際しては,血圧低下,深部静脈血栓症に注意を要する.アフェレシス療法に伴い血清中の免疫グロブリン,フィブリノーゲンなどの凝固因子が非特異的に低下するため,施行間隔の調整を要する場合がある.本疾患に対するアフェレシス療法は保険適用ではない.

施行回数・終了のめやす
 FSの一部において経過中に四肢脱力が加わりGBSの病像を呈することがある.この場合ではGBSと同様の免疫療法を施行する.また,意識障害を伴うビッカースタッフ型脳幹脳炎(Bickerstaff brainstem encephalitis:BBE)に進展する症例では積極的に免疫治療を行う.GBSの治療に準じ,個々の症例の臨床経過をみながら週3~4回を目安に施行する.(GBSの保険適用:Hughes重症度分類で4度以上の場合に限る.実施回数は一連につき月7回を限度として,3月間に限って算定される.)
保険適用   無

文   献
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10) 三田浩司,小西慎吾,秋岡寿,他:外眼筋及び内眼筋麻痺に対し血漿交換療法が有効と思われたFisher症候群の1例.日生病院医学雑誌1993;21:209-15
11) Ejma M, Waliszewska-Prosół M, Hofman A, et al:Progressive subacute Miller-Fisher syndrome successfully treated with plasmapheresis. Neurol Neurochir Pol 2015;49:137-8
12) Mori M, Kuwabara S, Fukutake T, et al:Intravenous immunoglobulin therapy for Miller Fisher syndrome. Neurology 2007;68:1144-6
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