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日本アフェレシス学会雑誌:7-17-51 神経疾患領域:傍腫瘍性神経症候群

7-17-51 神経疾患領域
傍腫瘍性神経症候群
アフェレシスの方法 PE
アフェレシスの目的 抗神経抗体の除去
推奨レベル 2C
カテゴリー III
文献的報告数 RCT CT CS CR
0 1 12 19
疾患概念
 傍腫瘍性神経症候群(paraneoplastic neurological syndrome:PNS)は,腫瘍の遠隔効果によって中枢神経から末梢神経,神経筋接合部及び筋肉に神経症候を呈し,腫瘍細胞の直接浸潤,転移や腫瘍に対する化学療法,放射線療法による副作用・代謝障害・日和見感染によるものではないとされる.EFNS(European Federation of Neurological Societies)/PNS Euronetworkは,PNSに典型的な神経症候群として,脳脊髄炎,辺縁系脳炎,視神経炎,傍腫瘍性網膜症,オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群,亜急性感覚性ニューロノパチー,慢性偽性腸閉塞症,ランバート・イートン筋無力症症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome:LEMS),皮膚筋炎を古典型PNSと定義している.古典型PNSでは,抗神経抗体の有無にかかわらず,高い確率で腫瘍の合併を疑う必要がある.PNSでは臨床病型と関連した特徴的な自己抗体(抗神経抗体)が検出されるため,抗神経抗体は診断の有用なマーカーに加え,治療反応性という点で診療に直結している.
 抗神経抗体は,神経細胞内抗原に対する抗体,神経細胞膜表面に対する抗体に分けられる.①神経細胞内抗原に対する抗体は,臨床的意義が確立している抗体:Hu抗体,Yo抗体,Ri抗体,Ma2抗体,CV/collapsin response mediator protein 5(CRMP5)抗体,amphiphysin抗体がある.これら抗体が陽性では腫瘍の存在を認めなくとも腫瘍を合併している可能性が高い.肺小細胞癌が併発していることを予測するZic4抗体,SRY-related HMG-box gene 1(SOX-1)抗体があり,さらに,抗グルタミン酸脱炭酸酵素(glutamic acid decarboxylase:GAD)抗体のようにスティッフパーソン症候群(Stiff-person syndrome),小脳性運動失調症などで陽性となる抗体がある.②神経細胞膜表面に対する抗体は,必ずしも腫瘍を併発するとはいえない抗体であるが,電位依存性カリウムチャネル(voltage-gated potassium channel:VGKC)複合体抗体,N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体抗体,α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionic acid(AMPA)受容体抗体,γ-aminobutyric acid B(GABAB)抗体,glycine受容体抗体などがある.腫瘍の併発の頻度が高くても70%程度のため抗体の存在がPNSを示すものではなく,腫瘍を併発しない自己免疫病態も存在する.神経細胞膜表面,多くはシナプス前膜・後膜にある抗原エピトープに反応する抗体であり,抗体価と神経機能予後が相関すること,免疫治療の効果があることから,抗体自体が病態形成に大きな役割を果たしていると想定されている.ただし,電位依存性カルシウムチャネル(voltage-gated calcium channel:VGCC)抗体陽性の小脳性運動失調症例は,他の神経細胞膜表面抗原に対応する抗体と異なり,免疫療法に反応しにくいことが知られている.

最新の治療状況
 治療の基本は,原因となる腫瘍に対する治療,免疫病態に対する治療に加え,症状に対する支持療法を考慮する.腫瘍に対する治療は抗原刺激を止めるためにも重要で,免疫病態に対する治療とともに迅速に行うことを基本原則とする.治療反応性の面から神経細胞膜表面抗原に対する抗神経抗体陽性PNSは,免疫療法の効果が高い,一方,神経細胞内抗原に対する抗神経抗体陽性PNSは,免疫療法の効果に乏しい.免疫療法に確立された治療指針はないが,NMDA受容体抗体陽性脳炎の治療戦略に準じて行われる.メチルプレドニゾロンのパルス療法,IVIG,PE,IAPPが第一選択となる.これらの単独あるいは複数の組み合わせを試み,治療反応が悪い,またはステロイド治療を施行しがたい場合では,シクロフォスファミドのパルス療法,リツキシマブ療法,その他の免疫抑制剤を考慮する.

アフェレシスの根拠
 PNS治療としてのアフェレシス療法について,十分なエビデンス示した報告はない.神経細胞膜表面抗原に対する抗神経抗体は,免疫病態に関与するため,自己抗体を除去することで神経症状の改善が期待できる.VGCC抗体,NMDAR抗体,VGKC抗体,AMPAR抗体は,抗体価と神経学的予後が相関することが知られている.VGKC抗体,抗VGCC抗体陽性PNSでは抗体の除去によって臨床症状は軽快し,NMDAR抗体陽性PNSでは腫瘍除去と免疫療法の組み合わせによって半数以上が完全寛解するとされている(いずれもアフェレシス単独による成績ではない).

施行上のポイント
 EFNS/PNS Euronetworkタスクフォースがマネジメントガイドラインを発表している.辺縁系脳炎,亜急性感覚性ニューロパチー,亜急性小脳変性症に対する免疫療法(副腎皮質ステロイド剤,PE,IVIG)の治療効果は期待できない.小児オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群では免疫療法が期待できるが,成人では効果が期待できないことがある.LEMSでは免疫療法が期待できる.神経細胞膜表面抗原に対する抗神経抗体陽性PNSでは,腫瘍に対する治療及び免疫療法が予後を改善する.

施行回数・終了のめやす
 保険適用外.効果判定のために,PEあるいはIAPPを週2回,2週~4週間の施行を検討する.

保険適用*   無

文   献
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