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日本アフェレシス学会雑誌:7-10-44 神経疾患領域:多発性硬化症

7-10-44 神経疾患領域
多発性硬化症
アフェレシスの方法 PE,IAPP
アフェレシスの目的 病態の沈静化
推奨レベル 疾患活動期(PE):1A,疾患活動期(IAPP):1B
カテゴリー RR-MS:II,SP-MS,PP-MS:III
文献的報告数 RCT CT CS CR
2 0 29 NA
疾患概念
 多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は,中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患で,時間的・空間的に病変が多発する疾患である.原因は不明であるが,中枢神経組織を標的とした細胞性免疫を主体とした自己免疫疾患であると考えられている.典型的な症状には,視神経炎による単眼視力低下,脊髄炎による四肢の脱力感または感覚鈍麻,脳幹病変による複視,小脳病変による運動失調などがあるが,これらに限定されない.臨床経過は,臨床的に初めて神経症候を呈する状態(clinically isolated syndrome:CIS),再発寛解(relapsing-remitting multiple sclerosis:RR-MS),原発性または続発性の進行型(primary progressive multiple sclerosis:PP-MS,secondary progressive multiple sclerosis:SP-MS)に分類される.発症10~20年後に多くの患者で進行性(二次性)の経過を示し,神経障害が進行する.MS病変は中枢神経全体に現れ,脱髄,炎症,グリア反応の焦点領域として白質に認識される.液性及び細胞性自己免疫は,遺伝的及び環境的要因とともに,MSの病態生理において主要な役割を果たす.本邦では人口10万人あたりに8~9人,男女比は1:3と女性に多く認められる.

最新の治療状況
 近年,RR-MSに対する疾患修飾薬が開発されている.インターフェロン-β製剤,免疫調節モノクローナル抗体,化学療法薬,及び経口薬などがある.これら薬剤によりMSの臨床的再発ならびに脳MRIでの新規白質病変の発生は明らかに抑制されている.一方,進行性MSに対する治療薬の開発は遅れている.従来,アザチオプリン,シクロホスファミドまたはIVIGは使用していない.成人・小児MSならびにCISの急性MS発作の標準治療は高用量の副腎皮質ステロイド静脈内投与である.副腎皮質ステロイド静脈内投与で十分な治療効果が得られない症例ではアフェレシス療法,あるいは副腎皮質ステロイド静脈内投与との併用療法が推奨される.

アフェレシスの根拠
 Weinerらは,RR-MSを対象にRCTを行い,ACTH,シクロフォスファミド併用下にPE群とsham PE群とに分け,PE治療後4週でsham PE群に比較し有意な改善を認めたが,長期的な効果はなく,MS増悪の病態沈静化と寛解を促進すると報告した.Weinshenkerらは,副腎皮質ステロイド静脈内投与が無効であったMSを含む中枢性脱髄性疾患にPEを施行,PE群の8/11例,sham PE群の1/11例で有効性を認め,また無効例に対してcross-over試験を施行,PE群では短期では8/19例に改善を認めたことからPEは急性増悪期の治療効果が不十分な症例において積極的に用いる治療法であると結論した.さらに,Keeganらは,症例を追加し,59例の中枢性脱髄性疾患に対してPEを施行し,44%に有効性を認め,中でも視神経脊髄炎関連疾患(neuromyelitis optica spectrum disorders:NMOSD),Marburg型MSにおいて治療効果が高く,治療反応性は早期治療と相関すると報告した.RR-MSに対するIAPPの治療効果に関するRCTはないが,有効性を示す症例報告があり,これまでの臨床報告207例の検討からIAPPはPEと同等の治療効果が示されている.PP-MSに対するPE治療は,Canadian cooperative MS study groupのRCTにより有効性は否定され,さらに,SP-MS,PP-MSの慢性期においても効果がないと報告されている.

施行上のポイント
 RR-MSの増悪期において副腎皮質ステロイド静脈内投与治療に反応しないMS症例では,5~7回のPEまたはIAPPを推奨する.発症から14~20日以内の早期治療開始は,治療反応性の予測因子となる.発症から60日以上の症例ではPEの治療効果は推奨されない.また,PP-MSに対するアフェレシス療法の有効性は認められていない.

施行回数・終了のめやす
 RR-MSの発症早期に5~7回のPEあるいはIAPPを推奨する.これ以上の治療では有効性を証明できていない.SP-MS,PP-MSでのアフェレシス療法は推奨されない.

保険適用*   有
 一連につき月7回を限度として,3月間に限って算定する.

文   献
 1) Noseworthy JH, Lucchinetti C, Rodriguez M, et al:Multiple sclerosis. N Engl J Med 2000;343:938-52
 2) 王子聡,野村恭一:ステロイド・パルス療法と血液浄化療法の適応.日本臨床2008;66:1127-32
 3) Weiner HL, Dau PC, Khatri BO, et al:Double-blind study of true vs. sham plasma exchange in patients treated with immunosuppression for acute attacks of multiple sclerosis. Neurology 1989;39:1143-49
 4) Weinshenker BG, O'Brien PC, Petterson TM, et al:A randomized trial of plasma exchange in acute central nervous system inflammatory demyelinating disease. Ann Neurol 1999;46:878-86
 5) Keegan M, Pineda AA, McClelland RL, et al:Plasma exchange for severe attacks of CNS demyelination:predictors of response. Neurology 2002;58:143-6
 6) Heigl F, Hettich R, Arendt R, et al:Immunoadsorption in steroid refractory multiple sclerosis:clinical experience in 60 patients. Atheroscler Suppl 2013;14:167-73
 7) Schimrigk S, Faiss J, Köhler W, et al:Escalation therapy of steroid refractory multiple sclerosis relapse with tryptophan immunoadsorption-observational multicenter study with 147 patients. Eur Neurol 2016;75:300-6
 8) The Canadian Cooperative Multiple Sclerosis Study Group:The Canadian cooperative trial of cyclophosphamide and plasma exchange in progressive multiple sclerosis. Lancet 1991;337:441-6
 9) Cortese I, Chaudhry V, So YT, et al:Evidence-based guideline update:plasmapheresis in neurologic disorders:report of the Therapeutics and Technology Assessment Subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurology 2011;76:294-300
10) Vamvakas EC, Pineda AA, Weinshenker BG:Meta-analysis of clinical studies of the efficacy of plasma exchange in the treatment of chronic progressive multiple sclerosis. J Clin Apher 1995;10:163-70