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日本アフェレシス学会雑誌:7-3-37 神経疾患領域:重症筋無力症

7-3-37 神経疾患領域
重症筋無力症
アフェレシスの方法 PE,IAPP,DEPP
アフェレシスの目的 自己抗体の除去
推奨レベル 1B
カテゴリー I
文献的報告数 RCT CT CS CR
11 16 15 NA
疾患概念
 重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)は,骨格筋の神経筋接合部の後シナプス膜に存在する膜タンパクに対する自己抗体によって神経筋接合部でのシナプス伝達が阻害され,筋の易疲労性を生ずる疾患である.この自己抗体の多くは抗アセチルコリン受容体(acetylcholine receptor:AChR)抗体であるが,その他に抗筋特異的チロシンキナーゼ(muscle specific kinase:MuSK)抗体,抗LDL受容体関連タンパク質4(low-density lipoprotein receptor-related protein 4:Lrp4)抗体などがある.MGの大半は眼瞼下垂,複視で発症し,そのうち約70%は四肢の筋力低下,嚥下障害等を伴い全身型に移行することが多い.全経過で眼症状のみの場合を眼筋型という.症状には日内変動があり,運動継続により増悪がみられ,休息により改善する(易疲労性).感染,ストレスを契機に急速に増悪することがあり(急性増悪),呼吸管理が必要な状態に至った場合をクリーゼという.

最新の治療状況
 MG治療の基本は,免疫療法で副腎皮質ステロイド薬,免疫抑制薬を用いて病勢を抑制し寛解を目指す.急性増悪時にはアフェレシス療法,IVIG,ステロイドパルス療法を用いる.対症療法としては,抗コリンエステラーゼ阻害薬を用いる.50歳以下の胸腺腫の合併例では早期に胸腺摘除出を施行する.なお,抗MuSK抗体,抗Lrp4抗体陽性MGでの胸腺摘除術は支持されない.IVIGは免疫グロブリンを400mg/kg/日を5日間,点滴静注する.静注用メチルプレドニゾロンパルス療法はメチルプレドニゾロンを500~1,000mg/日,3~5日間点滴静注する.急性増悪時のステロイドパルス療法ではクリーゼに陥る可能性があるため,IVIGやアフェレシス療法を組み合わせることが多い.MG長期管理のため免疫抑制薬が使用され,副腎皮質ステロイド薬,カルシュニューリン阻害薬(シクロスポリン,タクロリムス)などが用いられる.抗AChR抗体陽性MGでIVIG,PE効果が十分に得られない症例では補体阻害剤(エクリツマブ)が近年,保険適用となった.また,治療抵抗性の抗MuSK抗体陽性MGでは抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ)の有効性が報告されている(本邦では保険適用外).

アフェレシスの根拠
 アフェレシス療法は,MGの増悪期,胸腺摘除術前,副腎皮質ステロイド薬治療に十分に奏効しない場合に適応となる.アフェレシス療法は長期的な有効性効果はなく,急性増悪時を改善する短期的な治療法である.PE,IAPP,DFPPにより血中抗AChR抗体を除去し,病勢を改善する.抗AChR陽性MGではこの三者の治療法別の治療効果の差は認めない.なお,抗MuSK抗体のIgGサブクラスは主にIgG4からなり,抗AchR抗体はIgG1,IgG3であり,イムソーバTRによるIAPPではIgG4の吸着率が低いため,抗MuSK抗体陽性MGではPEまたはDFPPが適している.

施行上のポイント
 MGの発症早期に,強力で速効性のある治療法であるアフェレシス療法,IVIGを用いて短期間にMGの病勢を沈静化し,早期よりカルシニューリン阻害薬を積極的に導入,経口副腎皮質ステロイド薬を少量にとどめる治療法が推奨されている(early fast-active treatment:EFT).また,急性増悪時にも積極的にアフェレシス療法,IVIG,ステロイドパルス療法を施行し,短期間に寛解状態に導くことが重要である.IVIGとPEは重症MGにおいて同等な効果を示す.なお,呼吸障害を来す重篤なMGで入院早期にPEを導入した症例ではより効果的であったと報告されている.治療抵抗性MGの長期的な治療としてPE,IAPPが治療選択肢となる可能性が示されている.

施行回数・終了のめやす
 アフェレシス療法の最適なスケジュールはない.PEは副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬を併用下に,通常,10~14日間に循環血漿量(体重の4~5%相当量)/回を5~6回行い,その後,臨床症状の改善と抗AChR抗体価の低値を示すまで2~3週間に1回のPEを繰り返す(intermediate PE).intensive PE施行後より筋力の改善を認め,4~6週間は治療効果が持続する.近年,MGの発症早期にアフェレシス療法,IVIG,ステロイドパルス療法を積極的に施行,副腎皮質ステロイド薬を少量にとどめ,カルシュニューリン阻害薬を導入するEFT療法が施行されている.長期的にわたり高容量の副腎皮質ステロイド薬の投与が必要な症例では4~6週ごとにアフェレシス療法を追加して行うが(maintenance PE),これにより神経症状の改善,副腎皮質ステロイド投与量や副作用を減少させる.

保険適用*   有
 当該療法の対象となる重症筋無力症については,発病後5年以内で重篤な症状悪化傾向のある場合,または胸腺摘出術や副腎皮質ホルモン剤に対して十分奏効しない場合に限り,当該療法の実施回数は,一連につき月7回を限度として3月間に限って算定する.

文   献
 1) 本村政勝:自己免疫性神経筋接合部疾患の病態と治療.臨床神経学2011;51:872-6
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 4) Oosterhuis HJ, Limburg PC, Hummel-Tappel E, et al:Anti-acetylcholine receptor antibodies in myasthenia gravis. Part 2. Clinical and serological follow-up of individual patients. J Neurol Sci 1983;58(3):371-85
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 7) Oosterhuis HJ, Limburg PC, Hummel-Tappel E, et al:Anti-acetylcholine receptor antibodies in myasthenia gravis. Part 2. Clinical and serological follow-up of individual patients. J Neurol Sci 1983;58(3):371-85
 8) Howard JF Jr, Utsugisawa K, Benatar M, et al:Safety and efficacy of eculizumab in anti-acetylcholine receptor antibody-positive refractory generalised myasthenia gravis (REGAIN):a phase 3, randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre study. Lancet Neurol 2017;16:976-86
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15) Schneider-Gold C, Krenzer M, Klinker E, et al:Immunoadsorption versus plasma exchange versus combination for treatment of myasthenic deterioration. Ther Adv Neurol Disord 2016;9(4):297-303
16) 松尾秀徳:神経筋疾患,①重症筋無力症.血液浄化専門医指導マニュアル初版,2017,一般社団法人日本アフェレシス学会,NPO法人日本急性血液浄化学会,東京,pp.113-8