English

日本アフェレシス学会雑誌:7-2-36 神経疾患領域:慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー

7-2-36 神経疾患領域
慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー
アフェレシスの方法 PE,IAPP
アフェレシスの目的 CIDPの疾患活動性の抑制
推奨レベル 1A
カテゴリー I
文献的報告数 RCT CT CS CR
5 0 38 NA
疾患概念
 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating poly-radiculoneuropathy:CIDP)は,2か月以上にわたる慢性進行性,あるいは再発性の左右対称性の四肢の遠位・近位筋の筋力低下,感覚障害を主徴した原因不明の末梢性神経疾患である.臨床症候は,四肢の運動障害・感覚障害を認め,ときに脳神経・自律神経も障害される.四肢の腱反射は低下あるいは消失する.脳脊髄液検査ではタンパク細胞解離,電気生理学的検査・神経生検で脱髄所見を認め,画像診断では頸髄・腰髄においてGd造影効果・神経肥厚を認める.副腎皮質ステロイド治療,アフェレシス療法,IVIGなどの免疫療法後に臨床症状は改善する.CIDPの原因は不明であるが,末梢神経ミエリンの構成成分に(neurofascin 155,contactin-1など)対する免疫異常による生ずる自己免疫性疾患と考えられている.

最新の治療状況
 CIDPの基本治療として,①アフェレシス療法,②IVIG,③副腎皮質ステロイド治療があり,いずれもRCTによりほぼ同程度の治療効果を認めている.初期の治療効果はいずれも60~80%であるが,長期的な治療効果はない.しばしば再発するため補充療法を必要とし,経口副腎皮質ステロイド薬,免疫抑制薬,ときにIVIG,アフェレシス療法が行われる.難治例ではシクロスポリン,アザチオプリン,シクロホスファミド,リツキシマブなどの免疫抑制薬を併用する.

アフェレシスの根拠
 CIDP活動期に病因と関連する自己抗体,補体,炎症性サイトカインなどの液性因子を除去することを目的に行われる.2004年のCochraneレビュー(2010年改訂)では,2つのプラセボ(sham)とランダム比較試験対照試験(RCT)のメタ解析が行われ,PEは33~66%のCIDPにおいて臨床症状と神経伝導検査の短期的な改善効果が得られたと結論している.DyckらはCIDPに対して3週間,2/週のPE群(6回),sham群に分けて比較検討,PE群において臨床症状ならびに電気生理学的所見の改善を認めたと報告している.HahnらはCIDPに対してPE群(10回),sham群のクロスオーバー比較試験を施行し,PE群で明らかな臨床症状の改善と電気生理学的所見の改善を認めたと報告している.DyckらはCIDPに対してPEあるいはIVIGを施行し比較検討,2群間に有意差はなく,いずれも有効な治療法であると結論している.

施行上のポイント
 有効性を示す高いエビデンスのあるアフェレシス療法はPEのみである.PEはCIDPの第一選択治療法として有効である.近年,PE,IAPPのいずれもほぼ同等の治療効果を示したとの報告がある.PEは急速な神経症状の改善が求められる場合では有効性は高いが,再発率が高い.この場合では経口副腎皮質ステロイド薬,免疫抑制薬の併用を考慮する.アフェレシス療法は副作用・忍容性の点でIVIG,副腎皮質ステロイド治療に劣る.

施行回数・終了のめやす
 CIDPに対する保険適用は,急性増悪期の症例で,PE,IAPPのいずれかを施行し,一連につき月7回まで認められている.一般に,1週間に2回のPEを施行し,神経症候の改善が認められた後,ゆっくりとPEの回数を減ずることが行われる.PE,IAPPの治療効果期間は短いため,維持療法,あるいいは繰り返すアフェレシス療法,他の免疫療法が必要となる.

保険適用*   有
 当該療法の対象となる慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の実施回数は,一連につき月7回を限度として3月間に限って算定する.

文   献
 1) Gorson KC, Allam G, Ropper AH:Chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:clinical features and response to treatment in 67 consecutive patients with and without a monoclonal gammopathy. Neurology 1997;48(2):321-8
 2) Joint Task Force of the EFNS and the PNS:European Federation of Neurological Societies/Peripheral Nerve Society Guideline on management of chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy. Report of a joint task force of the European Federation of Neurological Societies and the Peripheral Nerve Society. J Peripher Nerv Syst 2005;10(3):220-8
 3) Koski CL:Therapy of CIDP and related immune-mediated neuropathies. Neurology 2002;59(Suppl 6):S22-7
 4) Toyka KV, Gold R:The pathogenesis of CIDP:rationale for treatment with immunomodulatory agents. Neurology 2003;60(Suppl 3):S2-7
 5) Dyck PJ, Daube J, O'Brien P, et al:Plasma exchange in chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy. N Engl J Med 1986;314(8):461-5
 6) Hahn AF, Bolton CF, Pillay N, et al:Plasma-exchange therapy in chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy. A double-blind, sham-controlled, cross-over study. Brain 1996;119:1055-66
 7) Dyck PJ, Litchy WJ, Kratz KM, et al:A plasma exchange versus immune globulin infusion trial in chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy. Ann Neurol 1994;36(6):838-45
 8) Lieker I, Slowinski T, Harms L, et al:A prospective study comparing tryptophan immunoadsorption with therapeutic plasma exchange for the treatment of chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy. J Clin Apher 2017;32(6):486-93