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日本アフェレシス学会雑誌:7-1-35 神経疾患領域:ギラン・バレー症候群

7-1-35 神経疾患領域
ギラン・バレー症候群
アフェレシスの方法 PE, IAPP
アフェレシスの目的 GBSの疾患活動性の抑制
推奨レベル 1A
カテゴリー I
文献的報告数 RCT CT CS CR
21 1 NA NA
疾患概念
 ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS)は,急性に発症する自己免疫性機序による末梢神経疾患である.下痢・咽頭痛などの先行感染1~2週後,四肢の運動麻痺を主症状とし,感覚障害・脳神経障害・自律神経障害などを伴う.末梢神経ミエリンが障害される脱髄型が多いが,軸索が障害される軸索型もある.末梢神経ミエリンの構成成分に対する自己抗体(抗ガングリオシド抗体など)が標的とする抗原部位に特異的に結合することにより末梢神経障害を生ずるものと考えらえている.

最新の治療状況
 疾患活動期に免疫調節療法を行う.免疫調節療法として,①アフェレシス療法(PE,DFPP,IAPP),②IVIGがあり,両者いずれもランダム化比較試験(RCT)により有効性が認められている.なお,副腎皮質ステロイド治療の単独による治療は有効性エビデンスがない.重症GBSの急性期に,嚥下障害・呼吸筋麻痺・重篤な自律神経障害(不整脈・血圧変動など)を認める症例では集中治療室において全身管理を必要とする.病早期より関節拘縮・廃用性筋萎縮・深部静脈血栓・肺梗塞などを予防するためリハビリテーションを開始する.

アフェレシスの根拠
 GBS活動期に病因と関連する自己抗体,補体,炎症性サイトカインなどの液性因子を除去することを目的に行われる.GBSに対するPEの有効性は,北米,フランスでの大規模RCTが行われ,いずれの試験でもPE群は対症治療群に比較し優位な臨床的な改善を示したと報告されている.IAPPの有効性は,対症治療群と比較した大規模RCTはなく,少数のRCT,PE群あるいはIVIG群を対照とした比較試験が行われ,PE群とIAPP群に明らかな有意差はなかったと報告されている.DFPPの有効性は,少数例の比較試験よりその有効性が認められている.

施行上のポイント
 本邦ではGBSに対してPE,IAPP,DFPPのいずれも保険適用がされ,これら治療法の有効性を比較した報告はない.治療法の選択は,施設ごとの設備,治療法の熟達度により異なり,施行側の熟達度の最も高い治療法を選択する.GBSでは自律神経も障害されるため,治療開始前から起立性低血圧,不整脈,高血圧などを伴う症例ではアフェレシス療法の選択は慎重にし,IVIGを第一選択すべきである.

施行回数・終了のめやす
 本邦の保険適用では,急性増悪期の症例で,PE,IAPP,DFPPのいずれかを施行し,一連につき月7回まで認められている.PEは,1回の血漿処理量は40~50mL/kg,2週間に4~5回,置換液は5%アルブミン液を使用する.PEの至適回数は,発症2週間以内において,軽症例(5m歩行可能)では2回,中等度症例(介助なしでは立位不能)及び重症例(人工呼吸器装着)では4回,重症例でも6回以上の必要はない.IAPPは,1回の血漿処理量は1,500~2,000mL(40~50mL/kg),2週間以内に隔日4~5回,症状によりさらに翌週に追加する.

保険適用*   有
 当該療法の対象となるギラン・バレー症候群については,Hughesの重症度分類で4度以上の場合に限り,当該療法の実施回数は,一連につき月7回を限度として,3月間に限って算定する.

文   献
 1) Griffin JW, Li CY, Ho TW, et al:Pathology of the motor-sensory axonal Guillain-Barré syndrome. Ann Neurol 1996;39(1):17-28
 2) Willison HJ, Yuki N:Peripheral neuropathies and anti-glycolipid antibodies. Brain 2002;125:2591-625
 3) Hughes RA, Cornblath DR:Guillain-Barré syndrome. Lancet 2005;366(9497):1653-66
 4) Beghi E, Kurland LT, Mulder DW, et al:Guillain-Barré syndrome. Clinicoepidemiologic features and effect of influenza vaccine. Arch Neurol 1985;42(11):1053-7
 5) ギラン・バレー症候群,フィッシャー症候群,治療ガイドライン2013,南江堂,東京,pp.82-4
 6) ギラン・バレー症候群,フィッシャー症候群,治療ガイドライン2013,南江堂,東京,pp.122-3
 7) Plasma Exchange/Sandoglobulin Guillain-Barré Syndrome Trial Group:Randomised trial of plasma exchange, intravenous immunoglobulin, and combined treatments in Guillain-Barré syndrome. Lancet 1997;349(9047):225-30
 8) 野村恭一:AIDPをめぐる最近の話題.免疫グロブリンによるGuillain-Barré症候群の治療.神経免疫学1999;7:203-9
 9) The Guillain-Barré Syndrome Study Group:Plasmapheresis and acute Guillain-Barré syndrome. Neurology 1985;35(8):1096-104
10) French Cooperative Group on Plasma Exchange in Guillain-Barré Syndrome:Efficiency of plasma exchange in Guillain-Barré syndrome:role of replacement fluids. Ann Neurol 1987;22(6):753-61
11) Haupt WF, Birkmann C, van der Ven C, et al:Apheresis and selective adsorption plus immunoglobulin treatment in Guillain-Barré syndrome. Ther Apher 2000;4(3):198-200
12) Diener HC, Haupt WF, Kloss TM, et al:A preliminary, randomized, multicenter study comparing intravenous immunoglobulin, plasma exchange, and immune adsorption in Guillain-Barré syndrome. Eur Neurol 2001;46(2):107-9
13) The French Cooperative Group on Plasma Exchange in Guillain-Barré Syndrome:Appropriate number of plasma exchanges in Guillain-Barré syndrome. Ann Neurol 1997;41(3):298-306
14) 王子聡,伊崎祥子,野村恭一,他:免疫性神経疾患に対する血液浄化療法による血圧の低下.日アフェレシス会誌2007;26 (Suppl 3):109