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日本アフェレシス学会雑誌:巻 頭 言:日本アフェレシス学会ガイドライン発行にあたって

巻 頭 言
日本アフェレシス学会ガイドライン発行にあたって

山 路   健

日本アフェレシス学会理事長
順天堂大学医学部膠原病内科教授

 この度,この日本アフェレシス学会ガイドラインを発行できましたことによって本学会会員は言うまでもなく,すべてのアフェレシス療法に携わる皆様,そしてアフェレシス療法を治療方針の一つとして検討されるすべての医療従事者の皆様にとって,アフェレシス療法がより身近になり,透明性が高まり医療現場において「より良い医療」としてアフェレシス療法が治療に組み込まれる一助となりますよう心より願っております.まずは本ガイドラインの発行にあたり多大なるご尽力を賜りました日本アフェレシス学会ガイドライン作成委員会の阿部貴弥委員長をはじめ各委員の方々,ガイドライン作成ワーキンググループの方々には深く御礼申し上げます.
 1991年にカナダのガヤットによって提唱された根拠に基づく医療(evidence-based medicine:EBM)という概念は1990年代に瞬く間に世界中に広がりました.EBMにおける「根拠」は多くの患者に対する医療の有効性や安全性を示す科学的な根拠であり,診療ガイドラインはこれらのEBMをまとめ,リスクとベネフィットを考慮して患者さんが「より良い医療」を受けられようにするための手引きとなるものです.1999年に厚生省(当時)の医療技術評価推進検討会が47疾患について診療ガイドラインの必要性を報告し,国内において各学会におけるガイドライン作成が急速に加速いたしました.
 本学会においても度々,理事会や在り方委員会の議題には上がったものの,アフェレシス療法が治療に組み込まれる医療現場において対象となる疾患がいわゆる難病をはじめとする難治性病態であったり,希少疾患であることが多く,集学的な治療の一環として組み込まれることから,大規模臨床試験を行ってエビデンスレベルの高い根拠を得ることやアフェレシス療法自体の有効性や安全性を示す根拠を得ることが難しいというバックグラウンドがあり診療ガイドラインの作成には課題が多いというのが意見の主流でした.しかしながら,難病をはじめとする難治性病態,希少疾患が対象となる治療であるがゆえに,情報が少ないにもかかわらず課題が多く患者さんや医療従事者が困る状況となることが多いからこそ,概念的な定義や診療ガイドラインが重要という意見も根強く出されていたのも事実であります.2016年10月に松尾秀徳前理事長が二期目の理事長に就任された際に「日本アフェレシス学会ガイドラインを作成する」という方針を理事会で示されました.2016年11月2日に開催された理事会においてガイドライン作成委員会を設立,2017年2月8日に第1回ガイドライン作成ワーキンググループ開催と進み,領域ごとの責任者を中心にワーキンググループを度々開催いたしました.また,コロナ禍においてはオンライン会議により意見交換を繰り返し行うなどして,委員会設立から3年半の月日をかけてこの度の発行までたどり着くことができました.
 アフェレシス領域におけるガイドラインとしてはAmerican Society for Apheresis(ASFA)が2005年に発刊され,その後,2016年6月に改訂したASFAガイドライン1)が用いられることが多いかと思いますが,米国において行われているアフェレシス療法は対象となる疾患やモダリティ,デバイス,血液浄化装置,対象となる疾患,そして治療プロトコールなどが日本で行っているアフェレシス療法とは大きく異なることから日本アフェレシス学会(Japanese Society for Apheresis:JSFA)によるガイドラインの発行が求められていました.そして,近年では国際化が進み日本発のアフェレシス療法がヨーロッパや米国,アジアを中心とした世界各国で実施されるようになり,JSFAガイドラインの発行に期待する声は海外からも届くようになりました.日本アフェレシス学会といたしましては,このガイドラインを通じて日本のアフェレシス療法の技術やエビデンス,そして情報を世界に発信して,アフェレシス療法の発展に寄与していきたいと考えております.
 本ガイドラインがアフェレシス療法に携わるすべての医師,看護師,臨床工学技士,さらには一般診療に携わる先生方,医療従事者の方々のお役に立つこと,そして,何よりも患者さんやご家族にとってより良い医療,納得できる医療が受けられる手助けになることを祈念いたしております.

文   献
 1) Schwartz J, Padmanabhan A, Aqui N, et al:Guidelines on the use of therapeutic apheresis in clinical practice-evidence-based approach from the Writing Committee of the American Society for Apheresis:The Seventh Special Issue. J Clin Apher 2016;31:149-62