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日本アフェレシス学会雑誌:巻 頭 言:日本におけるアフェレシス療法ガイドライン発行にあたって

巻 頭 言
日本におけるアフェレシス療法ガイドライン発行にあたって

松 尾 秀 徳

日本アフェレシス学会前理事長
国立病院機構長崎病院 特命副院長

 American Society for Apheresis(ASFA)は2005年にアフェレシス療法についてのガイドラインを作成し,2011年に改訂した後,2年ごとに見直しを行ってきました.ASFAに遅れること16年,ようやく日本アフェレシス学会のガイドラインが発行されることになりました.
 1990年代後半から日本の各医学会でEvidence based medicine(EBM)をもとにガイドラインづくりに取り組むようになりました.1999年には厚生省の医療技術評価推進検討会が47疾患について診療ガイドラインの必要性を報告し,これが大きな流れになっていきました.一般的に,ガイドラインは医師の判断を助けるほか,医療の質の向上や医療費の効率的使用に役立つといわれています.日本ではガイドラインに用いるEBMデータが少ないといわれてきましたが,近年,学会独自のガイドラインを含め,多くのガイドラインが発行されています.
 アフェレシス療法においては,欧米でEBMデータとなる臨床研究が行われ,日本からもランダム化比較試験(RCT)の報告がなされるようになりました.これまで日本のアフェレシス療法は世界をリードするものであるという自負はありましたが,EBMやガイドラインなどの形で世界に発信する力は不十分であると感じてきました.
 2016年に日本アフェレシス学会の理事長として2期目を託されたときに,日本版のアフェレシス治療ガイドラインを作成しようと決意しました.ガイドライン作成委員会を立ち上げ,ガイドライン作成のロードマップを作り,京都のISFA2019での発表を経て,ようやく今回の発行にこぎつけました.ガイドライン作成に当たっては,アフェレス学会内でも,いろいろな議論がありました.日本の多くのガイドラインで採用されているMindsに準拠して作成するべきとの意見も多く出されました.しかし,クリニカルクエスチョンが同じ内容になってしまうなどの問題もあり,EBMを重視し,Mindsの基本方針を踏襲する方針で,しかもASFAのガイドラインと比較しやすい形となるように配慮しました.
 日本ではアフェレシスの歴史や現状を見ても明らかなように,アメリカとは異なるデバイス・血液浄化装置を用いて,異なる方法で施行しており,対象となる患者の人種や疾患・病態も異なっています.したがって,これらを考慮したエビデンスの創出やガイドラインの作成が必要となります.ガイドライン作成の過程で,アフェレシスの方法や技術の具体的内容についてもガイドラインに含めるべきではないかとの意見もありました.これらについてはすでにアフェレシスデバイス使用マニュアルが発刊されており,本号にも収載しておりますので,参照していただければと考えています.
 本ガイドラインにより,現在,日本で行っているアフェレシス療法の妥当性について,広い視野からの根拠・位置づけができると考えられます.ある疾患にアフェレシス療法を行う際に,「どれくらいの有用性があるのか」,「どのような病態に,どの方法が適しているのか」などの疑問に答え,どのようなスタンス・位置づけでアフェレシス療法を施行しているかの指針となるのがこのガイドラインであると思います.また,これまでのエビデンスを検討してガイドラインを作ることで,エビデンスが足りない部分や,新たなクリニカルクエスチョンが明らかになり,今後の臨床研究の発展につながるものと期待します.ガイドライン作成に当たっては,エビデンスがない部分についても,日本アフェレシス学会として専門家集団のGood Clinical Practiceを示しておくことが重要と考え,各領域のガイドライン作成委員で検討し,その内容を反映させていただきました.
 本ガイドラインが日常診療に役立ち,患者さんの予後・ADL向上に寄与できることをガイドライン作成委員一同強く期待しています.アフェレシス療法に関わる診療ガイドラインは,今回が初版であり,今後,数年ごとに内容を吟味し,医学の発展とともに改訂していくことでさらに質の高いガイドラインになっていくことを願っています.