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日本アフェレシス学会雑誌:前 文

前 文

I. 本ガイドライン作成の背景と基本方針
 アフェレシス療法が対象となる疾患は難治性かつ希少疾患が多く,また患者背景やアフェレシス療法開始までの治療経過が個々の症例において異なっているなどの特徴がある.更にアフェレシス対象疾患は,救急疾患,血液疾患,膠原病・リウマチ性疾患,呼吸器疾患,循環器疾患,消化器疾患,神経疾患,腎臓疾患,皮膚疾患など多彩であり,多岐の診療科が関与する.また,アフェレシス療法は体外循環を用いた治療であるため,医工学的な知識が必要であり,個々の病態に合わせた看護ケアや栄養管理,難病医療費助成制度など医療助成申請など多職種が関与する.そこで,アフェレシス療法に関与する多岐の診療科及び多職種に対して,標準的手技及び適切な適応を示すことにより日常診療の質の向上を図ることを目的に本ガイドラインの作成となった.
 Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017によると,「診療ガイドラインの作成に当たっては,システマティックレビューという確立した方法によって,研究論文などのエビデンスを系統的な方法で収集し,採用されたエビデンスの全体をエビデンス総体として評価し統合することが求められる.」とされている.また,「診療ガイドラインに第一に求められるのは,その信頼性である.第一線の医療者も患者も,診療ガイドラインが提示する推奨が信頼できると判断しなければ,それを活用しようとはしない.そして,診療ガイドラインの信頼性の源泉は,エビデンスに基づいて科学的な判断がなされていること,そして,作成プロセスに不偏性(unbiasedness)が確保されていて偏った判断の影響が許容範囲内にあることである.」とされている.
 しかしながら,アフェレシス療法対象疾患は希少疾患が多く,また治療経過が個々の症例において異なっているため,大規模なランダム化比較試験が行いにくく,質の高いエビデンスの確保が困難な状況である.そのため,エビデンスがない場合は,可能な限りのエビデンスに関する情報を収集し,エビデンス推奨レベル及び推奨カテゴリーを示した.また作成プロセスの普遍性を担保するための担当組織は,救急疾患,血液疾患,膠原病・リウマチ性疾患,呼吸器疾患,循環器疾患,消化器疾患,神経疾患,腎臓疾患,皮膚疾患の各領域で薬物療法のみならず,アフェレシス療法を積極的に行っている専門家に参加していただいた.また多彩な診療科が関与するため,文献検索のばらつきをなくすため,日本医学図書館協会にキーワードを提出し,文献検索を行った.
 なお,本ガイドラインは,「ある疾患に対してアフェレシス療法が有効か」という統一されたクリニカルクエスチョン(clinical question:CQ)となるため,あえてCQ形式を用いなかった.また実臨床において引用しやすいようにワークシート形式を用い,2頁以内に収まる様にした.更に実臨床でのアフェレシス手技の統一するため「デバイスマニュアル」も収載した.
 本邦におけるアフェレシスは欧米に比べ,膜技術や吸着技術を用いたアフェレシス療法が発達しており,日々新しい治療法が開発されている.膜技術を用いた新しい治療法として,plasma filtration with dialysis(PDF)や選択的血漿交換(selective plasma exchange:SePE)などがあげられる.吸着技術を用いた新しい治療法として,潰瘍性大腸炎に対するポリアリレートビーズを用いた血球細胞除去用浄化器や血行再建術不適応な閉塞性動脈硬化症における潰瘍の改善を目的に使用する直接血液灌流型吸着器があげられる.本ガイドラインでは,様々な疾患に対して臨床効果が報告されているPDFを取り上げた.今後SePEや新しい吸着器の臨床効果がまとまり次第,ガイドラインに取り上げていく予定である.

II. 作 成 の 手 順
 本ガイドラインは,1)ガイドライン作成委員会,2)ガイドライン作成ワーキンググループ,3)テクニカル領域の担当組織を構築した.ガイドライン作成委員会はガイドライン作成の指針決定及び総括,疾患領域の決定,ワーキンググループ委員の選出を行った.救急疾患,血液疾患,膠原病・リウマチ性疾患,呼吸器疾患,循環器疾患,消化器疾患,神経疾患,腎臓疾患,皮膚疾患の各疾患領域ガイドライン作成ワーキンググループは,対象疾患の選出及び疾患ごとのキーワードの抽出を行った.また疾患ごとのキーワードをもとに日本医学図書館協会から提出された文献リストをもとにワークシートの作成を行った.テクニカル領域は臨床現場で行われるアフェレシス療法の実施に関する面を検討した.
 なお文献検索は,疾患ごとの日本語及び英語のキーワードを設定し,医学中央雑誌ならびにPubMedを中心に,2018年12月31日までに発刊された論文を対象とした.
 本ガイドライン作成に関する具体的手順を以下に示す.
2017年 2月 8日  第1回ガイドライン作成委員会開催
  ・ガイドライン作成手順の確認
  ・疾患領域の確定
  ・各疾患領域におけるガイドライン作成ワーキンググループ(WG)の発足
2017年 7月20日  第2回ガイドライン作成委員会開催
  ・各疾患領域のWG委員の依頼
  ・疾患領域ごとの対象疾患の選出依頼
  ・COI内容の確認
2017年10月19日  第3回ガイドライン作成委員会開催
  ・各疾患領域のWG委員の決定
2018年 2月 7日  第4回ガイドライン作成委員会
  ・共通ワークシートを用いた形式の決定
2018年 7月18日  第5回ガイドライン作成委員会
  ・疾患領域ごとの対象疾患の選出
2018年10月 3日  第6回ガイドライン作成委員会開催
  ・文献検索方法の検討.各疾患領域における均一化を図るため日本医学図書館協会への依頼を決定
2018年10月25日  第7回ガイドライン作成委員会開催
  ・日本医学図書館協会へ文献検索を依頼
2019年 2月20日  第8回ガイドライン作成委員会開催
  ・日本医学図書館協会との「診療ガイドライン作成支援契約覚書」を提出,承認.
以後,日本医学図書館協会からの検索結果をもとにワークシートの作成を行う.出来上がったワークシートは各ガイドライン作成委員会委員が相互査読した.
・エビデンス及び推奨の強さの評価
 各疾患に対するアフェレシス療法のエビデンス推奨レベル及び推奨カテゴリーはAmerican Society for Apheresisが作成したGuidelines on the Use of Therapeutic Apheresis in Clinical Practice―Evidence-Based Approach from the Writing Committee of the American Society for Apheresis:The Eighth Special Issue1)に準じて,各疾患領域のワーキンググループ委員が検討し,決定した.
〈エビデンス推奨レベル〉
推奨レベル 説明 エビデンスを指示する研究法の質 意義
Grade 1A 強い推奨/質の高いエビデンス 重大な制限のないRCTあるいは観察研究からの圧倒的なエビデンス 強力な推奨事項,保留なしでほとんどの状況でほとんどの患者に適用できる.
Grade 1B 強い推奨/「中等度」の質のエビデンス 重大な制限(一貫性のない結果,方法論の欠損,間接的,不正確)のあるRCTあるいは観察研究からの非常に強いエビデンス 強力な推奨事項,保留なしでほとんどの状況でほとんどの患者に適用できる.
Grade 1C 強い推奨/「低い」あるいは「大変低い」質のエビデンス 観察研究またはケースシリーズ 強力な推奨しかしより質の高いエビデンスが出現時には変化する可能性がある.
Grade 2A 弱い推奨/質の高いエビデンス 重大な制限のないRCTあるいは観察研究からの圧倒的なエビデンス 弱い推奨,最善の治療は状況や患者あるいは社会的価値観により異なることがある.
Grade 2B 弱い推奨/「中等度」の質のエビデンス 重大な制限(一貫性のない結果,方法論の欠損,間接的,不正確)のあるRCTあるいは観察研究からの非常に強いエビデンス 弱い推奨,最善の治療は状況や患者あるいは社会的価値観により異なることがある.
Grade 2C 弱い推奨/「低い」あるいは「大変低い」質のエビデンス 観察研究またはケースシリーズ 非常に弱い推奨:他の代替療法も同様に妥当と考えられる.

〈推奨カテゴリー〉
I:アフェレシスが一次治療として,または他の治療法と組み合わせて,一次選択として受け入れられている疾患
II:アフェレシスが二次治療として,または他の治療法と組み合わせて,二次選択として受け入れられている疾患
III:十分なエビデンスがなく,今後更なる検討が必要なもの
IV:アフェレシスが無効または有害であることが明らかである疾患.アフェレシス治療を行う場合は,IRBの承認を受けることが望ましい.

〈ワークシートの説明〉
*保険適用については,施行時に再度診療報酬点数表の確認を行う.

・今後の予定
 新しい治療薬やモダリティーの開発が日々行われており,治療方針は日々変化しているのが現状である.そのため,新たなアフェレシス療法の出現や新たなエビデンスの蓄積など実臨床の変化に伴ってガイドラインの内容を適宜見直す必要がある.本ガイドラインは数年ごとに見直しを行い,改訂作業を行う予定である.
 なお,本ガイドラインの記載内容に関しては,日本アフェレシス学会ガイドライン作成委員会が責任を持つが,実臨床における適用及びそれに起因する責任に関しては,患者を直接治療する医師が全責任を持つ.

III. 想 定 利 用 者
 アフェレシス療法を実際に行う,あるいは治療の一選択肢としてアフェレシス療法を検討している医療従事者(医師,臨床工学技士,看護師,栄養士)のみならず,アフェレシス療法を受ける患者さんを本ガイドラインの利用者として想定している.

IV. 資金源と利益相反
 本ガイドライン作成のための資金はアフェレシス学会が負担し,ガイドライン作成委員会委員及びガイドライン作成ワーキンググループ委員に対して報酬は支払われていない.また本ガイドラインの作成過程において,ガイドラインで取り扱われる医療機器や薬剤の製造・販売企業など利害関係を生じ得るいかなる団体からも資金提供は受けていない.
 なお,日本アフェレシス学会規定に則った利益相反(conflict of interest:COI)に関する申告書を提出し,日本アフェレシス学会学会事務局にて管理している.就任時に前年に遡って過去3年分について,それぞれの委員,委員の配偶者,一親等内の親族,または収入・財産を共有する者に関してガイドライン作成に影響を与えるCOIはないことを下記の基準で申告を得た.
 1.企業や営利を目的とした団体の役員,顧問職の有無と報酬額(1つの企業・団体からの報酬額が年間100万円以上のものを記載)
 2.株の保有と,その株式から得られる利益(最近3年間の本株式による利益)(1つの企業の1年間の利益が100万円以上のもの,あるいは当該株式の5%以上保有のものを記載)
 3.企業や営利を目的とした団体から特許権使用料として支払われた報酬(1つの特許使用料が年間100万円以上のものを記載)
 4.企業や営利を目的とした企業や団体より,会議の出席(発表)に対し,研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当(講演料など)(1つの企業・団体からの講演料が年間合計50万円以上のものを記載)
 5.企業や営利を目的とした団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料(1つの企業・団体からの原稿料が年間合計50万円以上のものを記載)
 6.企業や営利を目的とした団体が提供する研究費(1つの臨床研究(治験,共同研究,受託研究など)に対して支払われた総額が年間100万円以上のものを記載)
 7.企業や営利を目的とした団体が提供する奨学(奨励)寄付金(1つの企業・団体からの奨学(奨励)寄付金が年間100万円以上のものを記載)
 8.企業などが提供する寄付講座(企業などからの寄付講座に所属している場合に記載)
 9.その他の報酬(研究とは直接無関係な,旅行,贈答品など)(1つの企業・団体から受けた報酬が年間5万円以上のものを記載)
 COIの詳細に関しては,学会ホームページ(URL:https://www.apheresis-jp.org)に示している.

文   献
 1) Padmanabhan A, Connelly-Smith L, Aqui N, et al:Guidelines on the Use of Therapeutic Apheresis in Clinical Practice―Evidence-Based Approach from the Writing Committee of the American Society for Apheresis:The Eighth Special Issue. J Clin Apher 2019;34:171-354