ドナーアフェレシスは血液中の特定の成分を集め、それを様々な治療に使用することを目的としており、成分採血とも呼ばれます。一般的な成分採血では、遠心分離の原理により必要な成分を取り出し、治療に使用しない成分は再び体内に戻されます。使用する装置は成分採血装置と呼ばれ、ひと続きの回路内で血液を循環させながら採血〜遠心分離〜成分抽出〜返血の一連のプロセスを連続的に行います。
このように体の外に血液を取り出し循環させることを「体外循環」、ドナーと成分採血装置を繫いで体外循環により成分採血を行う方法を「閉鎖系システム」と呼びます。汎用されている成分採血装置では、体外循環血液量は200〜300 mL程度で安全な量です。ただし体の小さな小児で行う場合は、輸血用血液で補わなければならないこともあります。
閉鎖系システムは血液に異物や病原菌が混入することを防ぎ、ドナーと採取された血液成分を守る安全なシステムですが、ドナーは採血と返血のために針を血管内に留置し成分採血装置と連結された状態を維持しなければなりません。一般的に肘の内側の血管に、通常の血液検査で使用される針の1.5〜2倍ほどの太さの針を挿入・留置しますが、血管が細いドナーでは足の付け根の太い血管にカテーテルと呼ばれる細いチューブを挿入・留置することもあります。
またほとんどの成分採血装置では採血用と返血用の2本のルートが必要になるため、左右の肘の血管を使用します。ドナーアフェレシスでは、その使用目的により採取する成分の目標量が設定されますが、1〜3時間程度の時間をかけて全身の血液量(循環血液量)の1〜3倍ほどの量の血液を遠心処理します。
1. ドナーアフェレシスの種類と目的
ドナーアフェレシスは、集める血液細胞の種類とその使用目的により分類することができます。近年は細胞治療や再生医療の進歩により使用目的が多様化し、ますますドナーアフェレシスの重要性は増しています。
1-1. 末梢血幹細胞採取
造血幹細胞移植は、白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などの血液疾患や、小児悪性疾患などに対し、全ての血液細胞の源となる「造血幹細胞」を移植することにより、抗がん剤治療で疲弊した造血能の救援や免疫システムの再構築を行うための治療法です。
造血幹細胞は骨髄や臍帯血などに比較的豊富に含まれていますが、全身を循環する血液(これを末梢血と呼びます)にはほとんど存在せず、白血球の0.01%未満しかありません。しかし、顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte Colony Stimulating Factor:G-CSF)を投与することにより、末梢血の造血幹細胞が10〜1,000倍にも増えることが知られており、このことを利用して末梢血中に造血幹細胞を動員してアフェレシスにより採取して移植に使用します。
ドナーは、移植を受ける患者自身の場合(自家末梢血幹細胞)と、白血球の型であるHLAが一致した他人(同種末梢血幹細胞)の場合があり、病気の種類や状況によりどちらが適しているかが選択されます。
1-2. リンパ球採取(単核球採取)
白血球の一成分であるリンパ球を採取して治療に使用します。リンパ球は細胞に丸い核を1つだけ持ち単核球に分類されるため、単核球採取とも呼ばれます。リンパ球は免疫に関わる細胞のため、採取されたリンパ球を用いた治療は免疫治療となります。例えば造血幹細胞移植後のウイルス感染症や病気の再発に対し、ドナーのリンパ球を輸注することで免疫システムの再構築を強化して、ウイルスや再発した病気の駆逐を目指します。
採取したリンパ球に体外で様々な処置を施し、免疫学的な能力を高めてから輸注することもあり、特に近年は遺伝子工学技術を用いて除去すべき対象の認識・補足能力と攻撃能力を高めた「CAR-T治療(キメラ抗原受容体導入T細胞治療)」が日常診療でも使用できるようになり、その高い治療効果が注目されています。
1-3. 顆粒球採取
白血球の一成分である顆粒球は、細菌やカビによる感染症の制御に必要ですが、抗がん剤や放射線治療により一過性に減少します。特に血液疾患の治療中は、顆粒球がほとんどない状態が数週間以上続くこともあり、そのような患者さんが細菌やカビによる重症の感染症になった場合に、健康なドナーから顆粒球を採取して輸注することにより感染症を改善させる治療法です。
現在は保険診療で実施することはできず、臨床研究などとして行われています。事前にドナーにG-CSF(前述)やステロイドホルモンを投与して末梢血中の顆粒球数を増やしてからアフェレシスを行うことが一般的です。
1-4. 成分献血
血液由来成分を原料とする医薬品や輸血用血液のためのドナーアフェレシスで、本邦では血液センターで行われます。採取される成分は、血液細胞の1つである血小板、または血液の液体成分の血漿で、どちらを献血するかは都度相談して決めます。
成分献血により集められた血小板は濃厚血小板として血小板の少ない患者さんの輸血に使用され、血漿は新鮮凍結血漿として止血に必要な凝固因子が足りない患者さんの輸血に使用されたり、アルブミン製剤、グロブリン製剤、凝固因子製剤などの医薬品の原料となります。
2. ドナーアフェレシスによる有害事象
アフェレシスによる有害事象としては、①血管迷走神経反射、②神経損傷、③皮下出血、④クエン酸中毒、⑤血液成分の減少があげられます。
①は緊張やストレスなどにより惹起される血圧低下や脈拍の低下で、アフェレシス開始時〜終了後まで起こる可能性があります。前日に十分に休息をとり、リラックスした状態でアフェレシスに臨むことで回避できるとことが多いです。
②と③は血管へのアクセスが原因で、無理な針の挿入を避けることや終了後の止血をしっかり行うことで回避できます。
④はアフェレシス中に血液が固まるのを防ぐクエン酸という成分を血液中に混ぜるために起こります。クエン酸により一過性に血液中のカルシウムが減少して低カルシウム血症になり、唇や指先のしびれ、吐き気などが起こることがあります。予防的にカルシウムを血液に加えるなどの対応をします。
⑤は採取する血液により減る成分が異なります。末梢血幹細胞やリンパ球採取では、目標とする細胞と一緒に血小板も採取されてしまうため血小板が減少することがあります。また顆粒球採取では赤血球が一緒に採取されてしまうため、貧血になることがあります。
上記以外の有害事象として、末梢血幹細胞採取に使用されるG-CSFによるものもあります。いずれの有害事象も熟練した医療従事者が行うことにより、概ね回避可能です。
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